Vol.7-1 ただいまー!ヒマラヤ生還記 前編

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グレイス・ファミリー恒例ネパールトリップ。渡辺ケイのヒマラヤ奮戦記!もう何から書いていいの分からないくらいすごーい体験してきた気がします。サンフランシスコから成田経由でバンコクへ。そこ1泊、翌日の乗り継ぎ便でカトマンズへ…とネパールに辿り着くのに2日がかり。ディックと奥さんのアンをリーダーに総勢20人。今回のメンバーは本当に様々でした。

カトマンズでは病院や施設を訪ね、衣服やおもちゃを子供達にプレゼント。だぼだぼのすりきれた服から「自分のために」用意されたぴったりサイズに着替えた時の子供達は、本当に目がきらきら輝くのです。漫画の主人公の目に星がはいったように、ホントに光がさしこんで「きらめく瞳ってこういうことをいうんだなぁ」。ディックをパパと呼び始めて早7年、小さい施設で暮すマイナは、私がこのトリップに参加するきっかけとなった女の子です。

去年グレイス・ファミリーの収穫を手伝った時、葡萄を積みながらディックがネパールの子供達の話をしてくれました。彼の大切な子供達のひとり、マイナは腕も足も持っていません。肩からすぐに手のひらです。体は腰までしかないので、車椅子が彼女にとっての足。大切にしているベッドの周りにある全ての所有物をかき集めても、小さいボストンバッグひとつに入りきるくらい…。だけど彼女にはマザーテレサのような大きく温かなハートがあります。ディックは毎年ヒマラヤに登る前彼女を訪ね、短いヴァケーションを一緒に過ごします。「マイナ、ヒマラヤから帰ってきたらなんでも欲しいものを買ってあげるよ。なにがいい?」1分以上考え込んでいた彼女は「私、ほしいもの全部もってるから何もいらない。そのかわり、これからもずっとずっと私に会いに来てね、パパ」……「マイナ、僕達知り合ってからもう7年にもなるんだよ」「パパ、考えたことある?私達って本当にラッキーね」私はこの話を聞いた時、手に持っていた葡萄が滲んで見えなくなったのを覚えています。私が失ってしまったピュアな気持ちを、なんの疑いも持たずに彼女は内包しているんだ…。自分がとてもマテリアリスティックな感じがして恥ずかしかった。いいとか悪いとかの次元ではなくて、ただ目の前におかれている事実だと思いました。その時ディックが「マイナに会いに一緒に行かないか?」私は1秒たりとも躊躇せず首を縦にふっていたのです。その先にどれだけのことが待ち受けているのか知るよしもなく…。

初めて会うマイナは、私の差し出した蘭の花を受け取ると、屈託のない笑顔で私を抱きしめました。「ありがとう、パパのお友達に会うといつもハッピーになるの」。目の見えない子も口のきけない子も本当に嬉しそうににこにこしています。彼女等にとって来訪する客人は何にも変え難い楽しみのひとつです。ディックは全員のおでこに真心こめたキス。みんなかたことの英語で自分の話したいことを私達に伝えようと一所懸命です。過酷なヒマラヤ・トレッキング前、穏やかで優しい気持ちになれるひとときでした。

それにしてもカトマンズの至るところ、道のど真ん中に牛が寝そべっていて、その両側をフルスピードで車が駆け抜けていく様は目の当たりにしないと実感できない凄まじさ。道が整備されているわけではないので、むち打ち症になるんじゃないかと思うほど車が前後左右にジャンプして、私は首をずっと両手でおさえていました。ガソリンの質が悪いので排気ガスの臭いと色が、日本や米国のそれとはまったく異なり、5分もすると鼻の穴はもう真っ黒!息もできないほどでした。正直いって特に目的のない、ただの観光旅行としてだったら来たくない所です。

いよいよヒマラヤ入り当日。自分の体重と同じくらいありそうな荷物をひきずりエアポートへ。ザックの中身はドラッグストアを開けるんじゃないかと思うほどの飲み薬や湿布薬。寝袋(‐15℃対応)、トンネル工事のおじさんが使うようなヘッドライトに自分専用のトイレットペーパーも入っています。ビーフジャーキーやパワーバーにドライフルーツも必須アイテムかな。早朝のカトマンズ空港はトレッカー達でごった返しています。ヒマラヤへの登り口は無数にあって、トレッカー達はカトマンズから各地に小型飛行機で散らばるという感じでしょうか。世界中からこんなにたくさんの人々が集まってくるのか…ヒマラヤってそんなに魅力的で神秘的な場所なんだろうか。山登りなんて小学校の遠足で高尾山に行ったことしかない私が、いきなり行っていい所とはとても思えないけれど…不安と期待がないまぜになった思いを胸に機上の人に。なーんてセンチにひたっている間はない!のでした。わずか19人乗りの有視界飛行のプロペラ機はディズニーランドのビッグサンダーマウンテンとラスヴェガスのフリーフォールをたしたより怖い!揺れるの揺れないのって、窓から見えるヒマラヤ山脈もうねっている感じで、エヴェレストをこの目で見る前に飛行機が落ちて死ぬんじゃないかと真剣に思いました。顔面蒼白のまま小一時間ゆられて、私達の目的地(出発地点)であるルクラへ到着。熱いコーヒーをすすりながらまずはロッジでミーティング。簡単な単語(こんにちは=ヒンズー教徒が「ナマステ」、仏教徒は「タシデレー」と言葉も違います)を教えてもらったり、高山病の気配がした時の処置方法や歯磨きさえもペットボトルの水でやるよう指導され、「覚悟はしていたけどやっぱりとんでもない所に来てしまった」としみじみ思う私。メンバー全員とシェルパ(ポーター兼ガイド)にグレイス・ファミリー特製の帽子が配られます。これをかぶっていれば、10年間通い続けているヒマラヤでも有名なディックの仲間ということが一目瞭然でわかるので、万が一の時も安心だとか。メンバー20人に対し、ポーター、シェルパが40人、専属シェフが1人の大所帯で、銀色の雨が降りしきる中いざ出発!初日から雨。これから毎日急坂を10キロも歩くのか…。賭けに負けるわけにはいかないから、リタイヤは絶対できない!

後編へつづく

※リポート内容は取材当時のものとなります

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