Vol.10-1 白熱 バレルオークション速報 前編

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「$1,000」「$1,200」「$1,400」……「$9,500」「$10,000!」
「落札おめでとうございます!YOU WIN!あなたのものです!」
オークショニエの声が場内に響き渡ると同時に聞こえる、どよめきと歓声。グラスを片手にリラックスした雰囲気の中にも、眼孔するどく目当てのワイナリーを落とそうと狙うトレーダー達…。
ここは熱気に包まれたプロが集まるバレル・オークション会場です。マスタード(菜の花)が咲き乱れ、雨季もようやく終焉を迎えようとしているナパ。ワイナリー銀座=29号線沿いのヴィンヤード一帯は、黄色い絨毯が敷き詰められた美しい光景が広がっています。
今年で5回目を迎え早くも「冬の風物詩」となりつつある「プレミア・ナパ・バレー」。NVVA(ナパ・ヴァレー・ヴィントナーズ・アソシエーション)が主催する、輸出入業者や問屋、レストラン経営者、小売業など、プロだけが集まるバレル単位のオークションです。

リヴィングストン夫妻と

もちろん99年に収穫された葡萄はまだ樽の中で熟成されている真最中。プロはこのオークション会場で熟成途中のワインを試飲し、出来上がりの善し悪しを推測して、自分のものにしていくのです。場所はCIA(Culinary Institute of America)、アメリカでも屈指のプロフェッショナル・シェフのための料理学校。この一角にはワインスペクテーターが運営するレストランも併設されています。

NVVAに加盟する中から120のワイナリーが各々自慢のヴァラエタルのブレンドをこの日のためにしつらえ、万全の体制で臨んだ2001年。収益金はチャリティではなく、NVVAの運営資金にあてられます。各ワイナリーとも、NVVAに対する純然たる寄付ではあるけれど、トレーダー達にアピールする絶好の機会も兼ねているので当然力が入ります。
VIVAのイチオシ=ロバート・クレイグは、自分達のラインナップ総出のブレンド。アフィニティ50%、マウントヴィーダー30%、そしてハウエルマウンテン20%。これがまたウマイ!落札価格はだいたい$3000~$9000という相場の中で、大台にのった納得の$10,000。ちなみにもうひとつのVIVAのイチオシ=リストウも$10,000の大台こえていた…みんな舌が肥えてるじゃない~。
スタッグス・リープは、プティ・シラー、グルナッシェ、カリニャンなどローヌ産品種ブレンド。フローラ・スプリングスはなんとサンジョヴェーゼ、カベルネ、メルローのブレンドをやってのけてました。
遊び心も手伝って、正規にリリースするものとは異なるブレンドを用意するワイナリーが目立つのもこのオークションの特徴です。普段目にすることのできないワインが樽ごと登場するので、吐き出すはずの雫を興奮のあまり結構飲み込んでしまう人も少なくありません。まだ熟成の最中なので、ヴァラエタルやブレンドによってはダックホーンのハウエルマウンテン・カベルネのようにタンニンがあばれまくり、渋味が前面に出ているステージのワインもあれば、セインツベリーのブラウンランチ・ピノのように、十分アプローチアブルなものもあって実に千差万別。私がノックアウトされたのは、アリエッタのメルロー75%&シラー25%のブレンドでした。うっかりぜんぶ飲みほしてしまいました。
ダラ・ヴァレはシンプルにエステートのカベルネ100%です。しかし!一番人気のダラ・ヴァレには人が群がり近づくこともできない状態。本当に「あっ」という間にこの日のために用意したテイスティングサンプルが空になり、ミア・クライン女史もナオコさんもブースに立つ必要がなくなって、どこかに行ってしまったのでした…。人気者はゆっくりできるようになっているのね。
エキサイトするもうひとつのファクターはオールスター勢揃い!という舞台。VIVAでもおなじみのジョン・コングスガード、ルイス夫妻、ダグ・シェイファー、チャールズ・ヘンドリックス、ハーラン・エステートのダン、ダラ・ヴァレのミア・クライン。ロバート・モンダヴィ夫妻に、今やトキの人=ダリア・ヴィアデル…。

ジョン・コングスガード&ケイ

スペクテーターなどでしか見たことのないようなワインメーカーやヴィントナーズが、満面の笑みをたたえて自慢のワインをグラスについでくれのです。うちのユカリ嬢ときたら、私のイチオシ=リヴィングストンのミッチェル・ヴィンヤード・シラーが栽培されている畑のオーナー=ミッチェル氏と握手をしたりモンダヴィ翁のキスを受け、今にも倒れそうなくらい舞い上がり手のつけられない状態。彼女はフランス人ワインメーカー、フィリップ・メルカ氏がいたくお気に入りのようでした。
ケ 「ユカリ、私たちは『プロ』なんですからね。ワインも飲み残しをただ捨てるんじゃなくて、味わい方の練習をしてからになさいね、聞いてる?」
ユ 「うフん…」
私の注意もウワの空…。
お金持ちのシロウトが集まるチャリティ・オークションと一線を画するこのイヴェント、興奮しているとはいえ落札する側の思いもまた様々です。老舗の蔵への落札は取引ワイナリーとの長年のつきあいを考慮して、または「ご祝儀」の意味を含めて。レストランなら落札したワインには特製オークションラベルが用意されるので「リスト」に載せるためだったり、お店のディスプレイに利用したり。これをきっかけにして商談を開始したい、という業者もむろんあるわけです。
新しいワイナリーへの落札になると、ワインの出来は言うに及ばず、将来性、風評、ワインメーカーの経歴、エチケットのデザインなど、あらゆるファクターを考慮した厳しい目が向けられます。落としたからには全面的なバックアップを約束することになるのですから。
このバレルテイスティングとCIAが威信をかけたランチが終わると、待ちかねたオークションです。参加者は片手にワイングラスを、もう片方の手にはパドルと呼ばれる入札番号札を携えて会場に向かいます。お目当てのワインが出たときは、このパドルをあげて意思表示をするのです。毎年最高値を更新し続けるダラ・ヴァレには一体いくらの値がつくのでしょうか?そして誰が落札するんだろう?今年生まれるスターはどこのワイナリー?いよいよ緊迫したオークションの中継リポートは後編で!

※リポート内容は取材当時のものとなります

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