潜入!コンテナ船 衝撃の事実 Vol.4

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話の流れの一環としてちょっと歴史なんかもふりかえってみましょう。今回取材した船が商船三井所属 「パナマ船籍」だということはVol.1 で言及しました。世界中にあまたある国の船舶。そのほとんどがパナマもしくはリベリア船籍にしています。

パナマ or リベリア船籍にする主な理由はふたつあります。 第一に、日本船籍に登録すると船舶税が高いから。 コストは当然運賃にはねかえってきますから、節約するのは 「企業努力」の一環として当然のことでしょう。 第二に、日本船籍でなければクルーに外国人を採用できるメリットがあります。(逆にいえば、たとえばリベリア置籍を認めるから国籍に関係なく世界中のクルーを混乗させなさいといういことなんだけれど)日本の人件費の高さはここで触れるまでもありませんが、フィリピン人を始めとするクルー達を採用することは、コスト削減だけではなく、経済的に苦しいその国の雇用を助けてあげることもでき一石二鳥というところでしょうか。たとえば商船三井では、フィリピンに乗組員の職業学校を設立しその教育にも力を入れています。
さて「運賃同盟船&盟外船の違い」ですが、結論から言うと 1999年5月1日をもって差はなくなりました。

Free Trade の国アメリカにおいて、おかしいことではありますが太平洋を往来するパシフィック・トレーダーの船会社間で過当競争を防ぐための同盟が制定されていました。 つまり何を運ぶのにも各社横並びで同じレートだったわけです。早い話が談合ですね。 もちろんインデペンデント・アクション(Independent Action)という例外は存在していましたが、これは話がまたややこしくなるので置いておきましょう。その同盟に邦船三社である「商船三井」「日本郵船」「川崎汽船」も加わっていました。外国からは「マースク」(現マースクシーランド)「APL」(現ネプチューン・オリエント)などの名だたる船社(せんしゃ、と読ませる船会社をさす業界用語)です。

どこを選んでも価格は同じとなれば、サービスを徹底させて顧客獲得に走らねばならぬのが常。各社ともあらゆる面からカスタマー・サティスファクションを高めようとします。
– アンダーデッキに指定されればリクエストをきちんとこなす
– 出港日が決まっていればなんとしてでも間に合わす
– 問題が起これば担当者が直ちに対応して解決する

これに対し盟外船とは、その名のとおりこの同盟に加わらず同盟船より安い運賃を自分達で設定し、提供していたところ。 ひとことで言うと同盟レートをアンダーカットするのが盟外のやり方だったわけです。中国船のCOSCO、韓国のヤンミンやハンジンなどがその代表的な船社。

もちろん自由競争ですから、安くするのはいっこうに構いません。 しかしここに「安かろう、悪かろう」という厳然たる事実が存在するわけです。船がボロい、コンテナの質が悪いのは仕方ないとしても、最大にして最悪のデメリットは船のスケジュールがしょっちゅう変更されること。要するにオーバーブッキングをしていて、予定の船に乗らなくても、また突然出港予定の本船がキャンセルになっても、荷主に確認もとらないなんてことはザラでした。待てど暮らせど自分のコンテナは港に入ってこないのです。

コンテナが載らなかった場合、翌週または翌々週の船にまわすことを業界用語で「ロールオーバー」というのですが、その間当然コンテナは港に置きっ放し。港でそんなにコンテナを放っておかれたら中にいるワイン達は真冬なら凍結の恐れにさらされ、春先を過ぎるとサウナに入っているより暑い思いをします。

聞いた話ですが(と断りをいれここまで言ってしまっていい?)ワインではないけれど、フローズンのリーファーに至っては電源プラグの数以上のコンテナを積載してしまって、プラグシャッフルをしていたところもあるんですって。ようするに航行中「カチンカチンに凍っているんだから半日くらい電源をぬいてても大丈夫だろう」という考え。たとえば100の電源プラグを 150のリーファーコンテナでシェアするという恐ろしい現実です。

しかし!なんといっても最大のメリットは「安い」。 古紙を運ぶならまだしも「ワイン」にはねえ。おそるべし
「とにかく薄利多売」マインド。

1984年の米国海運法(Shipping Act)の改正が同盟廃止に拍車をかけ、冒頭に記したように1999年5月1日をもってこの「同盟」をなくし、「1対1」=「船会社 対 荷主」の契約にしましょうという新体制ができました。待ちに待った規制緩和です。 英語でデレギュレーション【 deregulation 】。

だから表面上はさほど差がなくなったかのように見えます。 が、実態はさにあらず。今でも呼び名は旧運賃同盟船そして旧盟外船。 契約の歴史やその会社に従事する人間のスピリットまではそう簡単に変えられません。問題が起こったとき…そう、この業界ではままある「有事の時」の対応に歴然とした差が出てきます。たとえば、起きてはいけないはずのロールオーバーに見舞われたとしたら…

コンテナを速やかに安全にデスティネーションに届けるための保管設備や移動手段の多さが違うわけです。
コンテナをとりあえず港から移動させたりするには、国内(内陸)の鉄道&運送会社が必要不可欠。 長い間、信頼のおける陸送会社と多くの契約を結び、業務をこなしてきた契約スケールの大きい旧同盟船のほうが優れているのは紛れもない事実です。

問題発生時のバックアップ体制はロジスティックだけではありません。 たとえば日本の船社なら国内顧客事情を熟知した(運ぶ荷物にあった対応のしかた、責任のとり方など)日本語で意思疎通の図れるスタッフが、その時点でセカンドベストの手段を最善をつくして対処してくれるわけです。

長い年月をかけ慈しみ育て造り上げたワイン。 大切な時間を共有して飲む人を幸せにしてこそ、その命が華ひらきまっとうするのだと私は信じています。

だからこそワイン運ぶ船を選ぶのも、ワイン商としては大切な仕事のひとつだと思っています。「運賃を少しでも節約してコスト削減につなげ、安く提供しよう」と短絡的に考えるのは命取りじゃないかな。 多少コストがかさんで店頭価格が高くなったとしてもきちんとした管理下で運ばれたワインを購入するほうが、ハズレも少ないし自分も納得できるというものです。

Deregulation がスタートして早2年、運賃同盟船、盟外船の旧体制はもう過去のお話。高いけれど質がよいか、安いけれど難ありかを両端に、いろいろな選択肢が出てくるのは競争社会の宿命です。

しかしワインを運ぶにはやっぱり質の高い方法を選んで欲しい!と思うのは、ワインラヴァーにとっては当然の要望ですよね。「旧」のカラを捨てて、サービスを含めたロジスティックス全般にメリットとなるような、真の意味での競争を各社がしてくれればと願いつつ。

突然英語レッスン:
上述のように法の規制緩和は英語で【Deregulation】レギュレーションの反対です。本文内にある デメリットもそうですが、【DE】をつけると反対の意味になること多し。
デオドライズ【 deodorize】はOdor(臭気)をとること。
デボーン【debone】はお魚とかお肉の骨をとること。
↑これ、レストランでひらめのムニエルとかオーダーした時使えますよ。
たとえば Can you debone my fish please ? = 骨、とってくださる?とか。

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