この日のディナーは、パークホテル東京26Fにあるサロン・クリストフルとサロン・シノワを借り切って行われました。ワインやお料理の魅力もさることながら、グレイス夫妻の貫く趣旨をご理解いただいた上での、ご参加をよびかけたものですが、全国から実にたくさんの方に参加表明をいただき、抽選となった次第です。
幸運なゲスト達が、ドン・リュイナール ブラン・ド・ブラン’93のシャンパーニュを片手に歩を進めたサロン・シノワには、にこやかに迎えてくれるグレイス夫妻が。そして、ディックの前には、あの有名な’87ポスターがあるではありませんか。左手には、お気に入りの茶色いペンを携えて、各ゲストの名前とメッセージを丁寧に書きこんでいくディック。そしてマリア様のようなおだやかな瞳で、控えめながら会話を楽しみつつ、その光景をみつめるアン。普通
ね、「マリア様の…みつめるアン」などというあざとい文章は、書かない私ですが、これ以外に言葉は見つからない、というほど的を射た&ハマッたその姿。アンに接したことのある人は、きっと「そうそう」とうなずいてくれるはずであります。彼女の話し方は、中学3年生でも聞き取り可能なほど。ゆ--っくり言葉を選びながら気持ちや事実を伝えていくのです。けして相手が外国人だから、というのではなく、もともとそういう、おっとりした女性なのであります。
サロン・シノワで繰り広げられる、英語でいうところの「アイスブレイク」タイムが功を奏し、緊張した面
持ちだったゲストの顔が、いつしかほころび、場が一気に和んでくるのが手に取るようにわかります。日本においては、ワイン会と称される集いの最初の15分くらいはお葬式のようなのね。しかし、ゲストの熱い思いや緊張をくみとるがごとく、グレイス夫妻の気の利いた演出により、和みの雰囲気は柔らかく浸透、ゲストどうしの会話も弾んでいきました。
ディナータイムが近づき、和服姿やローブデコルテ、タキシードに身を包んだゲストが、いざなわれるサロン・クリストフル。「おぉ…」
「まぁ、なんてステキ!」息をのむほど美しくセッティングされた晩餐会スタイルのテーブルに歓声があがります。その名のとおり、使われるカトラリーは、すべてクリストフル製。ショウルームを兼ねたこのサロンには、クラシックなスタイルはもちろんのこと、ニューモデル発表時には、いの一番に届けられることになっています。この日も、その柔らかさゆえに一般
家庭でのお手入れは不可能かと思われるほどの、まばゆい純銀の重い感触を楽しんだのでした。
リーデルジャパンの協賛により並んだボルドーグラスと、おごそかなたたずまいを見せるグレイスファミリーのボトル群に目をやれば、圧倒された心持ちと高鳴る胸で、賛辞の言葉さえも出てこない。これからどんな時間が待ち受けているのだろう。いったいいかなる味わいなのだろうか…。
まだ市場には出回っていない、ワイナリーが初めて手がける単一畑「ブランク・ヴィンヤード」とオリジナルの2001を、サイド・バイ・サイドで飲み比べた時の至福の時間。共通
項や、全く異なるキャラクターに意見の花が咲き、どちらが好きかも意見は二分されておりました。2000がことのほか優美で、今いただいても「あー、もったいない」とは思わないほど完成されていたことに驚かされたり。蔵出しの’88、’80と、めぐりあうだけでも幸運なヴィンテージを、グレイス夫妻の話を聞きながら、ともに楽しめる喜びは、きっとみなさんの素晴らしい思い出として残ることでしょう。通常のワイン会というと、終始ワインのコメントにかたよりがちな側面
を持つ、のが自然な流れでありますが、この夜はディックいわく「こんなにワインのことを語るのは初めて」というほどのものでした。4時間のうち、トータル20分ほどでしょうかね、ワインのお話は。ビバ!の読者は、すでにご存知のように、グレイス夫妻をここまで動かしめる子供達とのストーリーは、聞いていて飽きないほど、引き出しが多いのです。
通訳する私もタイヘンなんですが、ゲストもこらえきれずに…という、乗り越えねばならない瞬間が幾多もあり。私は今まで、彼が原稿を読み上げる姿を一度も見たことがありません。ぜーんぶ心の中に、そしてディックの記憶にきざみこまれているから、そして自分の言葉で「相手に伝わるように」表現して、話した相手の心の中で昇華させる術を知っているからでしょう。努力しているのではないと思う。ただ口から言葉を発するのは簡単だけれど、まことの意味で「相手に伝える」ことが自然にできる人は、そうはいません。そしてディック・グレイスは、それができる人間なのね。人を惹きつけるのも道理かな、傍で見ていていつも感じます。
この日も、何故、今自分達がこの場にいるのか、という理由をゲストに伝えるために、タリンという名の女の子のお話をしました。細かい内容は、またの機会に譲りますが、こういうシーンに慣れているはずの通
訳する私が、ウルウルしてしまう始末ですから、居並ぶゲストは、ひとたまりも?ありません。特に女性が、そろってハンカチを握りしめ、感動の涙々でワインがしょっぱくなったらどうしよう…!という状況に。ワイン会で泣かないよね、フツー。
あれれ、アンまで目を真っ赤にしているではないか。
デザートも堪能、そろそろディナーも幕を閉じようかという頃…吉野建シェフが登場。優れた野ウサギ料理に与えられる「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」最優秀賞、「テット・ド・ボー(子牛の脳味噌の煮込み)」で、煮込み料理の最優秀賞を受賞。いずれもフランス料理界最高峰の賞であります。自国民シェフをおさえての見事な受賞歴が物語る、食材とメニューで、パーフェクトに盛り立ててくれた吉野シェフですが、実はシャイで口ベタだったのした。
あれほど素晴らしいディッシュをサーヴしてくれたにもかかわらず、自慢気に語るわけでもなく、穏やかに感謝の気持ちを述べるシェフに、業を煮やした『ヴィノテーク誌』の主催者、有坂芙美子さんが、やおらマイクを奪います。「ちょっと、あなた。そんなんじゃダメよー。わたくしがご説明申し上げるわ」ここで、ようやく前述した受賞内容、そして日本人が受賞することが、いかなる理由を持つのか、というところまで言及したナイスフォローをいただき、ゲスト一同、再びどよめくのでありました。
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用意された『サイレント・オークション』は、静かに…しかし熱く!進行していきました。オークショニエーのリードでパドル(落札番号札)を挙げて競り落とす一般
的なオークションに対し、こちらはテーブルに置かれたワインの前に用意されたシートに希望落札価格と記名をして競り落としていく方法です。開催期間中、時間に束縛されることなく、静かに進行されることから名づけられた、米国で人気の高いシステムです。オークションに不慣れな人でも気軽に参加できる形態を取り入れることにより、チャリティの意義と収益を高め、楽しく充実したイベントになることを目的としています。
誰しも最初に、自分の名前と金額を書き入れるのは勇気が要るものです。気にはなるものの、いつ書いていいのやら…。でも早く書かないと、手の届かない落札値になってしまうかも…。さまざまな思いが交錯したことでしょう。
おぉ、一番手は料理研究家の先生。ありがとう、ありがとう。おっ、マグナムには、早くも40万円の値が!あれ?その上に書き込みがしてある名前は、ワイン王国の会長…!主催者だからって遠慮することないです、ないです。じゃ、私も書こうっと。デザートタイムから、さらに活発さを増すのはディナーにおける、サイレント・オークションの醍醐味でしょうか。
「慈愛」の赤い文字が刻印されたマグナムエッチングボトルは、75万円で、そして750mlのレギュラーボトルは、12万5千円で落札されました。感激しながらいただいたワインの数々、空いたボトルさえ貴重なのは、いうまでもありません。ゲストの提案による急ごしらえのライヴ・オークションで、集まった6万5千円!ひとり$500以上の寄付をしてくれたら、クリスマスに2002年ヴィンテージをプレゼントする、なんて、参加者へのオファーもディックから出てきたりして、もうすっかり気分はナパのオークション会場さながら。アカデミー・デュ・ヴァンの副校長による、麗しい香のたて方講座まで飛び出して(あ、どこかで聞いたことある!)たいへんな盛り上がりようでございました。
この日過ごした数時間が、ワインの楽しみ方や、ワインを通
してめぐりあう新たな出会いの予感を、ふくらませてくれることを心から願っています。
今回の来日中の活動を通して、目標だった300万円をMAWJに寄付できる運びになりましたことを、ご報告できる喜びと感謝をこめて。
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