Vol.9-2 渡辺ケイと巡るミレニアム紀行 リポート 【DAY 2 】
1日、1~2ケ所しか回らないことが基本のケイのツアーですが今日は特別4ケ所。
1)ジャーヴィス
ワイナリー内は一切撮影禁止。全米では過去に、なんと秘境などの特集で有名な「ディスカバリー」というTV番組に唯一、放映されたことのあるジャーヴィスを訪れました。すべてのワイン造りのプロセスを「洞窟の中で行う」ことで有名なこのワイナリー、その事実をエチケットにもうたっています。
ワインメーカーは、バレンタイン特集ブレンディング・キットでもご紹介したデミトリー・チェリチェフ。BVやイタリアのサッシカイアでもその腕をふるった実力派です。ナパの丘陵地帯に1,400エーカーの畑を所有するウイリアム・ジャーヴィスは、一般人の想像を超えるリッチマン。ダラ・ヴァレのオーナーにして「あそこは私達とはちょっと違うから」と言わしめるほどの潤沢な資金を、すべてこのワイナリーにつぎ込んでいます。敷地内には妻と自分の名をつけた湖があり(これが畑をクールダウンするのに一役かっている)カーヴを掘削中に出てきた源泉を利用してそのまま滝をつくってしまったり…。そう洞窟の中に滝が流れてるの!そしてこれがワイナリー内でパーフェクトな湿度を保っています。夏でも冬でも、蔵の中の温度と湿度が一定になるように工夫されているわけです。
普通セラー内のバレルは積み上げられているものですが、作業効率がいいように、ここでは床に一列にダーッと並べられています。こんな贅沢なスペースの使い方をしているのは私の知る限り「オーパス・ワン」とここだけ。カーヴ内はどこに何を取りに行くにも100m以内ですむように設計されていて、ワインメーカーのみならず、ワインにとっても素晴らしい環境が整っています。利益率など全く考慮せず、好きなように納得のいくワインメーキングをしていることは想像に難くありません。こんなに素晴らしい施設で生産量たったの7,000ケースですから。
1年に1度しか使わないボール・ルーム(宴会場)には、アーカンソーから掘り出されたクォーツやブラジルからのアメジストの原石が飾られています。私の背丈に届くくらいの大きさ!このお部屋でテイスティングしてみんなホーッとため息。お部屋に感心してる場合じゃない、ワイン飲まなくちゃ。一口飲んで「わっ、これ美味しい!」あちこちから声があがります。いい果実だけを選定し、ゆったり造るとこんな味になるのね…。
2)フロッグス・リープ
今日のランチは日本で最も有名なワインメーカーの一人に名を挙げられる、ジョン・ウィリアムスを囲みながらフロッグス・リープにて。
私が事前に言っておいたのに誰も練習してこなかったらしく、バスケット・ボールのスリーポイント・シューティングは全滅。誰もボトルはゲットできませんでした。ここの美人スタッフは上手なのです。お手本を見せてくれたミンディもリサも一発で決めてカッコイイ!なんでもちゃんと決まらないとお給料が下がるらしい。(笑)
日本でも有機栽培でその名をはせるフロッグス。近年はこの有機栽培にバイオダイナミック・ファーミングや風水が加わっています。バイオダイナミック・ファーミングって何?宇宙や地中も含めた自然のすべての力を受け入れ活用させる、それこそ信じる心と情熱がないと出来ない栽培法です。 潮の満ち干きや月の位置によって変わるパワーを地中から引き出し、葡萄樹(だけじゃないけど)に還元させてあげる。科学分析だけでは説明のつかない「気」を入れることにより、素晴らしい果実が育つという考えです。
毎日お花に水を上げるとき「いつまでも元気に咲いていてね」って話しかけていると、本当に1ヶ月くらいもつのと同じような感じでしょうか。
1800年代に建てられた、今も活躍するナパで最古のワイナリーに(建物自体はバーン=Barnといいます)これまたステキなテーブルセッティングが用意されていて(センターにあるフラワーアレンジメントなんて、日本の結婚式より豪華ってかんじ)楽しい質疑応答ランチの始まりです。
メンバー「有機で栄養を与えた畑っていうのは、絶対に葡萄樹が病気にならないの?」
ジョン「人間におきかえてみようか。栄養バランスを考えた食事と睡眠を十分にとって、エクササイズもして、ストレスのない生活を送っていたら病気になりにくいよね。だけど絶対癌にならない保証はない。どんなに気をつけていても病に倒れることはある。だけど何も気をつけない人よりは、防げる確率が高くなると思わない?僕がここで葡萄樹にほどこしている愛のこもった作業は、そういうことなんだ」
いつもジョークをとばしているジョンは明るいし典型的なカリフォルニアンという感じに見えるけれど、実はニューヨーカー。UCデイヴィスで醸造学を修める前は、コーネル大学でバイオロジーを学んでいたインテリです。学費をかせぐために郊外のワイナリーでバイトしているうちにハマってしまいバスにゆられて大陸横断、はるばるカリフォルニアまでやってきたそうな。
彼のあたたかい人柄はもとより、どうやったら滋味あふれる素晴らしい果実がそしてワインができるか…真摯に情熱を傾け、それを実行しているジョンの思いのたけに直接触れて、大感激のメンバーでした。
3)ケイマス
フロッグスから3分も車を走らせればもうケイマスです。
マルズ・バーのオーナーに「マルゴーを超えた」と言わしめたバッチオ・ディヴィーノ(天使のキスの意)のオーナー兼ワインメーカー=クラウス・ジャンセンが、実はケイマスのセールス・ディレクターでもあります。彼の案内で樽の洗浄やセラー内を見せてもらい(ここはオーナーであるチャーリー・ワグナーの考えがとても秘密主義で、テイスティングはできても見学は通常一切禁止)、スペシャルセレクションを含む現在リリース中のワインをテイスティング。時間がおしてきて、ワインを買う時間がなくなってしまったのは申し訳なかったです。
4)ニーバウム・コッポラ
本日の最終訪問ワイナリー=ニーバウム・コッポラに辿り着くと、なんとプレジデント自らお出迎え。いつもは鎖で封鎖されている、コッポラ監督の自宅を見下ろす丘の上でワイナリーの歴史をじっくり聞いた後、ワイナリー2階にある映画美術館を経て噂の開かずの間へ。いや、ハリウッドのスターやVIVAツアーのメンバーが行くと開きますけど。ワインメーカーもかけつけてくれ、他の人達がまぎれてこないようにドアを閉めきったうえで、ライブラリー・セレクションに囲まれながらのテイスティング。日本でも人気のビアンコ、ロッソから始まり、みんなのお目当てである3月リリース予定のルビコン97を飲んだ時は「おぉー」と低く感嘆の声がもれます。今飲んでもウマイんだナ、これが。しなやかでなめらかな「質の良い」タンニンが全体をギュッとひきしめ、そして引き立てている感じ。スペクテーターのリヴューで、ルビコンにとってこれまでの最高得点95ポイントを獲得したというのも納得。リリースが待ち遠しい!
5)フレンチ・ランドリー
さてさて珍しく駆け足のワイナリー訪問を終えて、今日のディナーはお待ちかねのフレンチ・ランドリー。一度ホテルに戻ってリフレッシュして…。おぉ、みなさんとてもお洒落に決めてる!
オーナーシェフである、トーマス・ケラーから歓迎のシャンパンをいただいてリラックスした後、予算内でどんなワインを飲むかで楽しいディスカッション。油断するとここのディナーは、ひとり$500は軽くいってしまいます。アロウホもあったけれど、こちらを薦められたのでまずはミア・クラインが造るセレーヌのソーヴィニヨン・ブラン$54。
カベルネやメリテージュはさすがに$100以下のものはない…。「予算、気にするなら最後まで、ソーヴィニヨン・ブランで通すしかないよ」の言葉に一同大爆笑で予算いきなりアップ。
米国のソムリエの特徴として、以下の2点が挙げられます。
①自分が好きなワインや惚れ込んでいる銘柄について質問されると、あからさまに相好をくずし、喜びを表現する
②知らない銘柄や飲んだことのないヴィンテージなどを、客が持ち込んだり注文した時、「一緒に試飲しましょう」というと正直に飲んだことない旨を伝え、感謝の気持ちを表現する
飲みたかったルイスのシラーはすでに品切れになっていて、VIVAでも人気の私のイチオシ、キャピオーをオーダーした時、キースの瞳が突然キラキラ輝きはじめました。「あれはすごいワインです!僕も大ファン。うちでも人気があって…もう1本しか残っていないかも…。ちょっと見てきます」え、2本ないと困る!せっかくなごやかにしているのに、ケンカになるかも~。でもこんなにわかりやすい反応してくれると、メンバーの期待も高まります。「これが最後の2本」だとニコニコしながら戻ってきたキースにみんな大喜び!果実みのしっかりした、これぞ「カリフォルニアの極上ピノ」堪能できました。
しかしキースが実力を発揮したのは、メインにさしかかった頃。予算アップとはいえ、$700のマヤを2本というわけにいかず、リストをながめ試案する私達。一緒にヒマラヤに登った「クラーク&クラウドン」にしようかな。味は確実だし日本には正規で18本しか輸出されず、VIVAでもわずかに6本出せただけの銘柄。これなら遜色ないでしょう。
余談ですが、2月2日現在、最新号のスペクテーターに掲載されている「ハリウッドを動かす大御所たちの恍惚ディナー」でアロウホ、ハーラン、コルギン、ブライアント&グレイス・ファミリーなどと同等に、このクラーク&クラウドンとエーブリューが選ばれていました。マヤを飲むかエーブリューにするか、初日にジャンケンして結局エーブリューを飲んだといういきさつがありました。マヤは日本でもお金を出せばあるけど、エーブリューはないですからね。
とりあえず…2本オーダー。するとキースがささやきます。「ケイとご友人は好みが一緒ですか?」帰ってきた彼の手には、カール・ロウレンスのマグナムが!もうVIVAのイチオシ、初来日オフ会で大爆発、あっという間にソールドアウトしたカール・ロウレンス。やるわね、キース…ありがとう!あまりの芳醇な香りとコクの深さに感激し、泣き出す人もいて(私じゃないです、今回は)先刻からお話していたグレイス・ファミリーと子供達とのつながりに感極まって泣いている人もいたので、みんな泣きながらの食事会になってしまいました。よかった、個室で。
5時間が夢のようにすぎさり、もう動けない…というほど満腹になったところで全員キッチンに招ばれて中をちょっと見学。(ここにはスタッフが総勢32人)憧れのトーマスとひとりひとり握手をかわして幸せな気分は最高潮!思い出に深く残るディナーとなりました。
ディナーで飲んだワイン
SB セレーヌ ハイド 99
CH フラワーズ キャンプ・ミーティング・リッジ 97
PN キャピオー デモステン 98
CS カール・ロウレンス マグナム 97
DS マルテイネリ マスカット アレキサンドリア 98
※リポート内容は取材当時のものとなります