Vol.14-2 2004 ナパ・ヴァレー・オークション リポート

Ma Jolie Fille Pinotsqué > Archive > Vol.14-2 2004 ナパ・ヴァレー・オークション リポート

パート2(ハーラン・エステートの新プロジェクト ヴェールをぬぐ)

THE NAPA VALLEY RESERVE = NPR

ハーラン・エステートといえば、誰もが認めるカリフォルニアカルトワインの頂点を極める銘柄。
2000年のオークションでは、ワインとしての史上最高値$700,000(8,500万円)をつけたことは今も人々の記憶に鮮明に残っています。
新ブランド『BOND』を起ちあげてから間もないのに、何故また『THE NAPA VALLEY RESERVE』なんて新しいワイナリーを造ったの?そんなに拡張して良いわけ?手を広げすぎてクオリティ下がってしまうのでは?ずっといぶかしく思っておりました。
今年のホスピタリティ・イヴェントのディナーは、リクエスト通りBONDとあいなり、同席したウィリアム・ハーラン氏、そしてワインメーカーのボブ・レヴィー氏に率直に聞いてしまった勇気あるワタクシ。ぶしつけな質問にニコニコ応じる余裕しゃくしゃくのふたり。「じゃあ、来週の月曜日にNVRにいらっしゃい、僕たちが何をしたいのか理解してもらえると思うよ」。かくしてBONDの取材を急遽NVRに変更するに至ったのであります。

NVRは私のアイデアから始まったプロジェクトなんだ。
それはそれはたくさんの人たちが「自分のワイナリーを持ちたい」と熱望しているんだよ。
みんなが口をそろえて言うんだ。「いつかワイナリーを持つのが自分の夢だ」と。
私は考えた。この人たちのためにしてあげられることはないだろうか。
ナパを頻繁に訪れてテイスティングするだけじゃない。自分自身の銘柄を持つ願いを現実のものにする術はないだろうか。
私にはハーラン、そしてボンドと心血をそそいで培ってきた銘柄がある。
このノウハウをシェアできれば、この「夢」はかなえられるかもしれない。
ささやかな思いやりと小さなひらめきが、このプロジェクトのスタートだった。

自分のワイナリーを持つ。この夢をかなえるには、想像をはるかに越える難関と努力を強いられる道が待ちかまえています。情熱だけで心ふるわすワインができるはずなどないことは、自明の理でしょう。 現在、ナパで畑を所有するワイナリーを持つとなれば、小規模から始めても$5~10ミリオン(6億~12億円)のコストはゆうにかかります。加えて膨大な時間、そしてワイナリーで実際にハンズオンするコミットメントは気が遠くなるほど。数え切れないほどのレギュレーションを、ひとつひとつクリアしていかなければなりません。

日本同様、米国のお役所仕事も連携が悪く、州、郡、地区そして恐怖のBATF (Bureau of Alcohol, Tobacco and Firearms)→( 欄外英語一口メモ参照 )と、何度足を運べばひとつの事柄が前へ進むのか…と、めげそうになるのが現実です。私も米国で株式会社設立&酒類輸出販売免許を取る時、本当にタイヘンでした。

新しいエチケットのデザイン許可をとるのも、これまた一筋縄ではいかないのであります。重箱の隅をつつくようにmm単位の細かいサイズのはてまで規格が決まっているのはもちろん、デザイナー探しから始まり、ボトルの大切な顔なれば納得のいくまで何度も吟味を重ね、BATFのサインをもらうまではてなき戦いが待っているのでございます。印象を激しく左右するエチケットは、かかる費用ももちろんピンキリで、$1,000~$100,000(115万円~1,150万円)とデザイナー次第で幅があるのでさぁタイヘン。

枚挙にいとまがないレギュレーションに関わる煩雑なプロセス、ワインメーカーの選出、自社畑を持つなら畑の売買から土壌の整備、品種やクローンのセレクション、収穫時の人員確保。フルーツを調達するなら、葡萄栽培農家との契約もしなければならない。自分が真剣にハンズオンしようと思ったら畑に入りびたり、それこそやることは無尽蔵に山積みです。そして状態の良いフルーツを収穫し、破砕、発酵、樽熟、ボトル詰め、瓶熟、エチケット貼り…ワイナリーオーナーへの道は喜びが大きい分、苦労も並々ならないのが現実というものであります。

ウィリアム・ハーランのアイデアとは、ワイン造りの知識と経験すべてをABCからパッションとともにシェアしようというものでした。ハーランのノウハウを活かして、しかも限られた資金で自分のワインが造れるとは、カリフォルニアワイン・ラヴァー冥利につきるといえるでしょう。だってボブ・レヴィーがクラス開いてくれたり、実際にブレンドしてくれたりするんだよ。畑はビル・ハーラン所有の80エーカーだし。

NVRのシステムは米国高級ゴルフクラブのそれに似ています。最初に入会金に該当する金額、$100,000(約1,150万円)をデポジットとして収めます。ゴルフクラブと違うところは退会時に10%を差し引いた金額が返却されること。クラブですから当然年会費($960)、月会費($160)がかかります。 そして毎年「自分の銘柄」が生産されるので、希望に応じたマイブランドの費用がミニマム85万円からマキシマム520万円の幅で用意する必要があるわけです。

ミニマム=1/2樽=12.5ケース=150本
マキシマム=3樽=75ケース=900本

金額だけ最初に並べると、庶民には「夢のまた夢…」のようなかんじですが、前述した事項をかんがみればとってもリーズナブルであります。だってアナタは、ハーランチームの庇護のもと、自身の銘柄のオーナーになるわけですから。ただしここで造られたワインは、自家消費用です。家族や友人とシェアしたり、ギフトにしたり、チャリタブル・ドーネーションに使うこともOKですが、販売することはできません。

そしてクラブメンバーの特典が、これまたウットリするほど素晴らしいの!勧誘にビクともしないワタクシですが、聞き進むうちに取材を忘れて「私も入会しようかなー」と 真剣に考えてしまいました。

NPRは私のアイデアから始まった特典の数々と、コンセプトをいっきにご紹介しましょう。

【選べるワイン メーキング システム】
ワインメーキングの方法が、自分の能力や希望にあわせて下記の二通りから選べるようになっています。
1.DESIGNATED VINEYARD SYSTEM
自分で好きな列を選ぶシステム。約200本の葡萄樹を己の眼で選択。思い入れも深くなりますね。
2.STATE SYSTEM
相当量のブレンディングワインを割り当ててもらうシステム。眼力に自信のない人、経験のない人はこちらを選ぶ傾向に。

ヒルサイド&ヴァレーフロア、80エーカーの畑に、カベルネ・ソーヴィニヨン&フラン、メルロー、プティ・ヴェルドーと植樹されています。

当然、樽もトップクラスのものばかり。
SEGUIN MOREAU、TARANSAUD、SAVRY, SYLVAINを使っています。
ミディアムトースト、ヘヴィートースト、自分の好みを反映させて気分はもういっぱしのワインメーカー。
もちろんボブ・レヴィーをはじめとしたスタッフがコンサルティングをしてくれるので、失敗する心配もなし。

【通年ハンズオンクラス】
私が『門前の小僧クラス』と名づけた、これまたとっても魅力的なカリキュラム。 1年を通して剪定や開花時期、収穫時など、節目節目に畑で実際に作業をまじえて講習してくれます。ナパ・ヴァレー・カレッジの授業は1学期で終了ですが、こちらは1年を通して、しかもメンバーが望めば半永久的に受けられるというのが魅力的。もちろんクラスルームで講義を聴いたり、ワインメーカーのボブ・レヴィー自らブレンディング・セッションをやってくれたりと内容も充実しています。ガーデニングやクッキングクラスも揃って、一家のことはおまかせあれの姿勢です。

【自分だけのオリジナルエチケット】
たとえば私だったら、KEIKO VINEYARDとか、我が家の風景を入れ込んだりとか、とにかく何でも好きにデザインできてしまうわけです。前述したように面倒なBATFとの折衝もすべて引き受けてくれるので、自分で奔走する必要もありません。エチケットのみならず、ボトルサイズ、フォイルカラーや木箱、包装紙のはてまで自在にデザインできるとあっては、『ワイナリーオーナー』の意気込みもさらにヒートアップ!

【子供たちの庭】
楽しいのは親だけではありません。家族みんなで自然に触れることができるよう工夫されています。果樹園あり、はちみつが採れるようHONEY BEHIVESあり、イタリアはトスカーナ地方から取り寄せた6種類のオリーヴツリーあり…。 過日、子供たちが実際に摘んだイチゴでストロベリーショートケーキを、パティシエと一緒にその場で作りほおばったそう。400本のオリ-ヴツリーからは、将来オリーヴオイルが作られることでしょう。楽しいだけでなく、自然のなりわいを体得できるというアイデアがグッドです。

【メドウウッド特別料金設定】
上述したアクティヴィティに参加するには、日帰りは不可能です。

セント・ヘレナにファシリティを擁するNVRは、メドウウッドが所有しています。どんな良いことがあるかというと… 毎年ナパヴァレー・チャリティオークションの会場となる、ル・レエ・シャトーメンバーにして全米屈指の高級リゾート=「メドウウッド」が、かなりお得な割引料金で宿泊できます。

規定料金からの割引率は以下のとおり
・10泊まで   25%OFF 
・11-20泊まで  30%OFF 
・21-30泊まで  40%OFF 
・30泊以上   50%OFF 

【ホスピタリティ・バーン】
ディナーやワインパーティなどの催しができる施設が2年後には完成します。メンバー同士の交流を深めたり、時間がとれた時にゆったり過ごせるスペースで、眼下に自分の畑を見下ろせるのがなんとも良い気分!

【マイセラー】
サークル状になったセラーはNVRのワインだけでなく、プライヴェート・コレクションを持ち込んで保管しておくことができます。各列のつきあたりは大人数で食事ができるスペースが設けられているので、親しい友人を招いてランチやディナーを楽しめるという趣向。うーん、うなっちゃうー。どうしてここまで粋にエンテーテイメント性を追求できるのか!?

自分の畑、ワイナリー、そしてプライヴェートラベルを所有できるだけでなく、ブドウ栽培と造り、そしてボトリング後にエチケットを貼る最後の工程まで携わることのできる『ワイナリーのオーナー』になりたい人のためのプロジェクト。ハーラン・エステートのチームメンバーが全面サポートすることが確約されています。それがNVRの全容でした。

バート・アロウホ氏も、メンバーになったとか。現在の会員数は約180名。このクラブは「INVITATION ONLY」なので、誰でもなれるわけではないのです。が、初期段階の今ならまだ大丈夫かも。最終的には350-400メンバーズを目標にしているとのこと。メンバーになろうかなー、なりたいなーとお考えの方、いかがですか?

英語一口メモ

HE IS ARMED = 彼は武装している。
ARM 腕のほかに…武器、兵器、銃器のこと
FIREARMS 日本の辞書には「小火器」と出ていますが、これじゃナンだかわからない…。
ようは、拳銃とかライフルとかのことです。
米国は連邦ライセンス保持者には、法に準じてさえいればオンラインショップで拳銃を買うことだってできるのです。
昔は私もシューティングレンジでよく練習したものです。マグナム44は自分の体がひっくりかえってしまうけど、ワルサーの小型や散弾銃はこなせるようになったのでした。
家には護身用の銃があった…日本の常識にはかかりませんよね。
というわけで。BATFとは、アルコールやタバコ、そして銃のライセンスなどを統括する事務局で、ヴィントナーズ(ワイナリーやワインメーカーなどワイン造りに携わる人)にとって切っても切れないお役所なのであります。

※リポート内容は取材当時のものとなります

archive一覧に戻る