Prologue

エリカ・ゴットル

MERUS =ラテン語で1) PURE 2)COMPLETE UNDILUTED (of Wine)
2001年12月23日発行のザ・ニューヨーク・タイムス・マガジンで、【メーラス】が「次世代【スクリーミング・イーグル】登場か」と取り上げられてからというもの、ワイン評論家のポイント合戦がかびすましくなった銘柄である。パーカーが、2001および2002ヴィンテージにそれぞれ94~97ポイント、94~96ポイントをつけたとあれば、どれほどドッシリとしたワインか想像に難くないというものだろう。

Vin de Garage

セットでしか買うことのできない
ワインの中に

ジョセフ・フェルプスでエノロジストを担ってきたマーク。そして水産毒物学とチョウザメの繁殖に携わった後にワイン造りを志しナパのワイナリーの門をたたいたエリカは、同じUCアーヴァインに通っていた縁で結ばれメーラスを立ちあげた。こんにちワイン業界から熱い視線を注がれているこの銘柄は、1998年が初ヴィンテージという若きガレージワインである。
メーラスのワインが評価される理由のひとつは、やはり優良栽培畑のフルーツを使っていることにあるだろう。「スタッグス・リープ・ディストリクト= STAG’S LEAP DISTRICT」、「セント・ヘレナ= ST. HELENA」、そしてコングスガードやスタッグス・リープ・ワイン・セラーズが自社畑を持つことでも有名な「クームスヴィル= COOMBSVILLE」。使う畑の分布はナパ全体のエリアにわたっており、これらのフルーツをたくみにブレンドすることにより、後発組ながら独自のブランドを築き上げこんにちに至っている。

Surprising Visit

オフィシャルなインタヴューではなく、ランチをしながらおしゃべりという形での初対面。すでにデカンタージュされたくだんのボトルをテーブルに置き、にこやかに待っていたエリカは、たいへん気さくでワインを説明するのと同じくらいの時間をさいてキャヴィアの話もしてくれた。
「うちみたいな汚い正真正銘のガレージに、まさかパーカーが足を運んでくれるとは思っていなかったの。彼から電話が来たときはクラッシュの真っ最中で、『え?あーパーカーさん?今、忙しいから後でお電話します。連絡先を教えてくださる?』って相手をまくしたてたのよ。彼は『エリカ、状況がわかっていらっしゃらないようですね、もう一度言います。僕はロバート・パーカーJr.です。あなたのワイナリーを訪れたいのですが。』もう受話器をとり落とすところだったわ!」エリカは大笑いしながら当時をふりかえる。

Undiluted

フランスのシャトー・ヴァランドローがそうであったように、メーラスもまたパーカーの手で高みにおしあげられたシンデレラワインだったのである。インクのように深みのある紫紺カラー。あまやかで重厚感あふれるワインは、アルコールが15.5度とジンファンデル並みに高い。名は体を表す。MERUSとはラテン語で「UNDILUTED」。直訳すれば「水でうすめていない」となるこのワインは、何も足さず何も引かず、の造りをそのままボトルにつめた。
この味わいやアルコール度には賛否両論があるだろう。しかしカルトワインの仲間入りをするかどうかが問題なのではなく、自分達の造ったスタイルを受け入れてくれる人の存在がありがたい。これからも評論家の言葉に左右されることなく、信念に基づいて造りあげた【メーラス】のワインをテーブルでシェアしてくれる人たちのためにサーヴし続けていきたい、とエリカは愛おしそうにボトルをみずからの手で包み込んだ。

※リポート内容は取材当時のものとなります

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