Prologue

自宅のリヴィングでくつろぐジョン

コングスガードが満を持して世に送り出す「The Judge Chardonnay 2003」
”John Kongsgaard is in search of the Holy Grail※1 , and these are among the most interesting, naturally made wines one will find on Planet Earth.”
上記はこれ以上は望めない、というほどのパーカーによる賞賛の言葉である。2003年のグロウイング・シーズンは”シャルドネーの開花時期を除けば”おおむね良好だった。このことが意味するものは4割近くの生産量ダウン、すなわち割り当ては減少しウエティングリストはさらに長くなる…という事実である。2003年のシャルドネーはおおむね出回る量がぐっと少ないことを覚悟しておくべきだろう。
パーカーから絶賛され瞬く間に完売した新しいシャルドネーの名は、ジョン・コングスガードの父親が1959年~1985年までナパ・カウンティの裁判官だったことから命名された「THE JUDGE」という。わずか5バレル(1バレル=25ケース勘定で1,500本)という希少さもさることながら、蔵出し価格の$175という数字はカリフォルニアン・シャルドネーとして最高値であることは間違いない。
ナパタウン東部に位置するコングスガード所有のROCKY HILL土壌の畑で、“完璧な状態”のブドウ樹から1エーカーにつきわずか0.75トン、すなわち1本のブドウ樹につき1/2ボトルしか生産されないこのワインが利益率などは度外視して造られたということは明らかである。

例えばハーラン・エステートが1エーカーあたり2トンの収穫という数字を口にする時、その言葉の裏にはどれほど厳しく選果しているかという自負がある。大量生産を誇るワイナリーの収穫量が1エーカーにつき16トンの声を聞けば、0.75トンという数字がおよそ業界の常識を逸脱したものだということがわかるだろう。

左ナパシャルドネー
中央シャイナーボトル
右シラー

< Review with Previous Report >
本編を読む前にコングスガードのABCから復習をしたいむきには↓
Kongsgaard Visit

Magic of Coombsville Vineyard

ジョン・コングスガードの祖父はロック・ビジネスに携わっていたという。サンフランシスコの名所のひとつに数えられるベイブリッジ。この橋の途中からアクセスのあったネイヴィー基地(Naval Base)※2を埋め立てして建造したのは他ならぬジョンの祖父であった。母方の所有するクームスヴィル畑にゴロゴロころがっていたヴォルカニック・ロックは海軍のベースを造るにあまりある量を誇り、いくら掘り起こしても尽きることがなかったという。

「あの畑にはブドウよりも石ころのほうが多かった」とジョンは苦笑する。ミネラル感たっぷりのワインになるのもうなづける話だった。高いポテンシャルを見出したかの地は、はたしてネイヴィーベース建設の後、本格的なブドウ栽培畑へと変貌をとげていく。
ナパ市街地東方に位置するこのクームスヴィル一帯は良質の葡萄栽培エリアとして知られており、シャルドネーやカベルネなど品種も多岐にわたる。この畑で栽培されるフルーツはタンニンが強くミネラル感にあふれ新樽への抵抗力がある。まるで「高級ワインを造るため」にあるといっていい。ニュートンやスタッグス・リープ・ワインセラーズといった有名ワイナリーもこの地区のフルーツを使っている。造り手の努力と期待に素直に応えてくれるこの畑をジョンは慈しむ。ポテンシャルを見極め先行投資をした彼は、これまでも自身のブランドに1.5~1.75トンの収量でおさえてきた。結果は誰もが認める「コングスガード」のシャルドネー。1996年に綺羅星のごとく誕生し瞬く間にスターダムにかけあがったことが単なる幸運でないことは周知の事実である。

The Judge; In Father’s Honor

1975年当時、まだ若いジョンのため的確なアドヴァイスとともに植樹を助けたという彼の父が2001年に他界した。80歳で天命を全うするその最後の瞬間まで裁判官であり続けた父の栄誉を讃え、最高峰のワインを造る決心をした時、ジョンの胸をよぎったネーミングは唯一無二の「The Judge」。

このワインへの情熱とアプローチは極めてストレートである。極限までの挑戦。この言葉に尽きる。プロセスも同様、ストレートフォワードで特別なマジックなど何もない。母方が所有していた畑から9エーカーの良質ブロックをセレクト。このわずか9エーカーの畑に4名ものヴェテランを投入し、1週間もの時間をかけて日々「完璧な」状態のフルーツだけを収穫する。完璧と思われた中からさらに「パーフェクトを探し出す」という前代未聞のやり方だ。

通常9エーカーの畑から作られるワインは20~25バレル。新樽100%で20ヶ月(シュール・リーで16ヶ月)熟成させたこの「The Judge」の初ヴィンテージは、わずか3バレルである。「自分でもここまで素晴らしいワインができるとは想像していなかったよ。今まで造っていたシャルドネーだって最高だと思っている。でもこれは全く違うワインだ。」と笑うジョン。

ボトルネックには
「The Judge」の文字が

初ヴィンテージはベイエリアではフレンチ・ランドリーやルビコンなどに12本、ニューヨークはダニエル、パーセィ、ヴァリトンズなどに6本と有名レストランへのアロケーションも非常にシヴィアな状態だったことを考えれば、2003年、2004年の数量が各々5バレルずつに増えたこと、そして将来的には8バレルまで増やしたいとの意向はファンにとって喜ばしいニュースである。

Mineral and Earthy

典型的なぬけるようなカリフォルニアっぽさが全くない。一般的にノーズを表現するときに「アロマがグラスから飛び出してくるようだ」という褒め言葉を米国人は好むが、この『The Judge』はおよそその対極にある。卓越したバランスの良さは、ひとつのファクターが突出するのをまるで拒むかのようだ。追い求めてようやくめぐり合える美しい酸、ミネラル、シトラス、そしてピーチピッツ(桃の種)の微かなノーズ。
しかしひとたび口に含むと、まるではじけるようにマウスフィールを感じる。驚くべき厚みなのにしつこくない。あまやかなのにキレが良い。温度が上昇してもキリッとした酸をキープしてぼやけない。洗練を極めたアーシーさ。パーカーやタンザーがうなるはずである。

「『The Judge』は、カリフォルニアンでもフレンチでもない仕上がりだと自負しているんだ。他に形容しがたい「コングスガードのワイン」といっていいだろう。僕自身それはたいへん誇らしく喜ばしいことだと思っているよ。」グラスを見つめながらジョンはつぶやいた。

Bottle

2003年ヴィンテージからボトルの形状が変わる。象徴的だったヘヴィーなボトルからレギュラーボトルに変更される。環境問題を考えた時、フランスやイタリアから高い経費をかけて運んでくることはエネルギーや資源の無駄ではないかと思い至ったという。厚みのあるボトルはカリフォルニアではトレンドだが「Strictly fasion=ファッション性を追求しただけ」と、ジョンは言う。今までヘヴィーボトルを使ってきたことを後悔しているわけではない。しかし何かに気づいた時、その事実を認識しきちんと方向転換をする姿勢はワイン造りにも共通するものだろう。
これまでのコングスガード・シャルドネーとエチケットのデザインは同じだ。そのエチケットにかぶせるように「エンボス加工※3を施した「The Judge」の文字を浮き上がらせ、ボトルネックにも同様にエンブレムを貼り付ける。

Next Challenge; Brand New Winery in Atlas Peak

アトラス・ピーク=Atlas Peak は、アンティノリがアトラス・ピーク・ワイナリーの名で、サンジョヴェーゼを作っていたことで広く知られるエリアだ。そのままアペレーションとして命名された経緯を持ち、この地名と品種をリンクさせるヴィントナーズは多い。
シルヴァラード・トレイルを左に見て山あいにのぼっていくアトラス・ピークの緯度は、ヨウントヴィルとほぼ同じである。標高の高さが、カネロスと同等の冷涼さをもたらすといわれている。サンジョヴェーゼより適した品種があるべきだと考えるのは自然なことだった。

キャリアを積み上げ早30余年、ついにジョン・コングスガードの積年の夢が叶う時がきた。
このアトラス・ピークにある150エーカーの土地に、面積にして700スクエアフィート(約630平方メートル)のワイナリーとケーヴを建設することになったのである。所有する150エーカーのうち、植樹された5エーカーをカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、そしてルーサンヌが占める。
取材をした2005年7月7日時点で、翌週から開始する予定だった工事は1年以内に完成を目指す。カスタムクラッシュやボトリングなどの施設を第三者と共有できるという新条例第一号に該当するワイナリーは、オーパスワンやジャーヴィスのように樽を重ねずにシングルレイヤー(一層)に配置し作業効率を高める。こんにちまで他人の施設を借りていた状況下で、これだけのワインを造り続けてきたコングスガードのさらなる飛躍が大いに期待できそうだ。

– Notes –
※1 Holy Grail:キリスト教聖書からの引用で「聖杯」を意味する。Holy Grailを探すということはおそらく世界で一番重要なもの、価値のあるものを探求する、というほどの意味である。
※2 Naval Base:現在は公園に姿を変え一般市民に公開されている。
※3エンボス加工:凹凸をつけて文字を浮き彫りにすること。

※リポート内容は取材当時のものとなります

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