Prologue

左から ケン&アキコ・フリーマン、エド・カーツマン

Mrs. NAOKO Dalla Valle, Clos PegasのMITSUKO Vineyard, そしてこのFreemanのAKIKO’S Cuvee。日本人女性がカリフォルニアワインに関わり、担う事実を誇りに思うと同時に応援したくなるのが心情というもので、デヴュー当時からその品質の高さに感動しウォッチしているワイナリーを今回はご紹介します。

Beginning

偶然という名の必然。運命的な出会いがドラマのように転がっていることもある。大学卒業後、期間限定でヨットのクルーになったケンが米大統領の保養地としても有名なマーサズ・ヴィンヤードからカリブに向かう途中、ハリケーン・グロリアに足止めを余儀なくされ時間つぶしのために立ち寄った友人宅のパーティにアキコも来ていたのである。ふたりの共通した趣味は食とワインだった。

ケンがケロッグ大学でMBAを、アキコがスタンフォード大学でイタリアン・アートの修士を修める間、東と西に別れながらも「いつか多くの人とシェアできる素晴らしいワインを自分達の手で」という思いは持ち続けていた。資金の調達、地域の限定、ワイナリーのロケーション。時を重ね願い努力し実現させる夢に手が届きそうなところまで来た。残る課題はワインメーカーである。

お祓いをする神主さん

運命の出会いは重なる。同じマサチューセッツ大学に籍を置き、時代を共有した男が運命の糸にたぐりよせられるようにふたりの前に現れた。ピノ・ノワールオンリーのトレードショーの会場だった。後にワインメーカーとなるエド・カーツマンは『テスタロッサ』の造りを担っていたが、ちょうど転進を考えていた。物静かな口調と所作が品性を感じさせ、ワインへのたぎる情熱とが不思議にまじりあうキャラクターの持ち主であるエドは、ラクロス選手として活躍していたケンをよく覚えていた。15年の後、ワイナリーオーナーとワインメーカーという関係で手をたずさえることとなるとは夢にも思わなかった」と笑いあうふたりである。

Brand New Winery

シャルドネーの樽試飲をする
アキコ・フリーマン

2004年にリリースされた初ヴィンテージは、2002年のピノ・ノワール。ソノマ・ヴァレーとソノマ・コーストにはさまれたロシアン・リヴァー・ヴァレーからのデヴューである。生産量530ケースと少ないながら、本当に丁寧な仕事をしたのだということが口に含めばわかる出来栄えである。しかもこのヴィンテージのフルーツ※1は、メリー・エドワーズ※2所有のメリディス・エステートで栽培されたものも使われているのだ。

新設ワイナリーが優良栽培農家と契約を結ぶのは困難を極める。すでに実力のあるワイナリーとの長期契約している、もしくは自身でブランドをたちあげるなど、選択肢がある中で最も魅力的なオファーからつぶされていくからだ。そういう状況下で、先行きの見えないNew Comerが進める道は限られている。ネットワークを使って栽培農家の門戸をたたくことができるのは幸運なほうである。それでも当然すんなり「YES」という答えが返ってくるとは限らない。お互い気が合うか、目指すゴールは一緒か…と「キャッチ&リリースプログラム」と呼ばれる「デート」をするのである。期間はたいてい1年。

説得するケンとアキコにメリー・エドワーズはうなづいた。「いいわ、じゃあ少しだけどわけてさしあげるわ」。初めての収穫、クラッシュ、発酵、熟成、ブレンド…。エドと共に夫妻が精魂をかたむけ、最善をつくしたのは言うまでもない。
1年後。メリディス・エステートからわけてもらったピノが入ったバレルの前で、 試飲するメリー・エドワーズをみつめるケンとアキコ。テイスティングをしたメリーが微笑んだ。「あとどれくらい欲しい?」

建設中のケーヴのお披露目パーティに集った顔ぶれを見れば、いかにフリーマンがソノマの地で受け入れられているかがわかるというものだ。ダトンランチ、デリンガー、キーファー、ハインツといった錚々たる優良栽培農家のオーナーたちが心からフリーマンの門出を祝っていた。極上のフルーツを享受し、ワインメーカーに恵まれたフリーマンの未来は明るいといえよう。ケン、アキコ、そしてエドにとってはるかなる栄光への航海は始まったばかりだ。

2003 Vintage

畑と樽の相性もわかってきたという。フルーツを前面に出すため、ボトリングを早めにしているのが特徴である。造りの実力にあわせ、入手できるフルーツも増えたため530ケースから1,200ケースに総生産量をのばした。ピノ・リポート※3やワインスペクテーターで高い評価を得て完売となった。

From Freeman

< 初ヴィンテージによせて ワイナリーからの言葉 >
ピノ・ノワールを造るワインメーカーにとって、2002年はまさに夢のようなヴィンテージでした。カリフォルニアの涼しい太平洋沿岸地区のアペレーション、特にソノマ・コーストやルシアン・リヴァー・ヴァレーは理想的な気象条件となり、まさに歴史に残る素晴らしいヴィンテージを造り出したのです。2001年は温暖で収穫量も多かった年です。一方2002年の春は冷涼結花も少なくなり、その結果収量も減少しました。しかし、そうした涼しい春を補うかのようなソノマの典型的な夏(霧に覆る涼しい朝と強い日差しのために気温が上昇する昼)がフルーツを完熟させ、また9月にありがちな極端に暑い日や寒い日もなく非常に理想的な形で熟成の過程が進みました。発酵タンクから出てきたワインはすでに深い凝縮感とフィネスを備えており、そのまれに見るバランスは10年に1度という素晴らしい仕上がりを約束していたのです。

———————————————————————–

– Akiko’s Cuvee – 150ケース バレルサンプルのテイスティングで、アキコとエドのテイストが合致した6樽が始まりのポジティヴ・ セレクション。深みのあるルビーカラー。しっかりしたタンニンに支えられ、完熟したブラックチェリー、ワイルドベリー、ナツメグを彷彿させるアロマが口中に広がる。余韻も長く卓越した酸と凝縮感を呈する。
– Sonoma Coast – 930ケース マウスフルでシルキー。スパイシーでシナモンやブラックチェリーのアロマを感じさせる。ストラクチャーとバランスの良さ、そして余韻の長さは特筆すべきものがある。
– Chardonnay – 100ケース ハインツやキスラーの向いに位置するブラック・エメラルドで栽培されたフルーツを使い自家消費用に造ったもの。グレープフルーツ、アプリコット、柑橘系のフレーヴァーが際立ち、しっかりした酸が果実味とのバランスをとっている。日本にも若干輸出されるとのこと。

Notes

※1フルーツ: 米国のワインメーカーや評論家は、ブドウのことを「フルーツ」と表現している。
※2メリー・エドワーズ: ピノを愛好家が畏敬の念をもつソノマのワイナリー。比較的高価なワインではあるが、収益は無視した造りに徹しているとは本人の弁。こちらも飲めば納得の逸品である。
※3ピノ・リポート: スペクテーターのプレジデントだったグレゴリー・ウォルター。ピノ好きが高じて、「ピノ・リポート」というタイトルのパブリシングを発行するに至る。2005年度の「ジェームス・ビアード・ジャーナリズム・アワード」※4受賞。
http://www.pinotreport.com/
※4ジェームス・ビアード・ジャーナリズム・アワード: 「フレンチ・ランドリー」のオーナーシェフ=トーマス・ケラー氏は、米国料理界のアカデミー賞と目される「ジェームス・ビアード・ファンデーション」で史上初の偉業である「2年連続ベストシェフ」の座を勝ち取り、全国にその名を知らしめた経緯を持つ。

※リポート内容は取材当時のものとなります

2005年頃のお話しに戻る